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初めてのベンチャー企業

サークルの勧誘にまぎれていたその20代半ばの女性が
何といったのか、はっきりは覚えていない。
入寮1週間で危険愛好家に育てられた僕たち3人の寮生は
その話しの目新しさと、いかがわしさに引きつけられた。
入学式は終わったばかりだったけれど、とっくのとんまに
入寮という「通過儀礼」を済ましていた寮生に怖いものなんてない。
入学式へと、塾歌を歌いながら寮から行進し、15人で整列・体育館前で記念撮影。
全員が声を枯らしている。大学初日から異常集団発生。道行く人の視線が心地よい。
世の中に奇妙なものがあるなら今のうちに見ておきたい、
今なら何でも受け入れられるだろう。諦めに近い決意があった。
目の前にいる女性はスーツを着ていてしっかりしていそうだが、
うわさの宗教が怪しいセミナーへの誘いを行っているのかもしれない、と思う。
でも、宗教なら宗教で良かった。
今ならすべてのものを相対化出来るような気がしていた。
危険を避けるよりも、僕たちは新しいものを知りたくてしょうがなかった。

とある高層ビルの1室で行われるというセミナーに行くと、
各所の大学から集められたという数十名が集まっている。
全員が白くて薄汚いマットの上で座禅をし、
不思議な呪文を唱えて空中への浮遊を試みて、いなかった。
長机が整然と並べられ、机の上には鉛筆とアンケート用紙が置かれている。
全員が席に着くと、20代後半だというスーツ姿の男性が現れ、講義が始まった。
ロジカル・シンキングの講義だ。
MECE(ミッシー)やピラミッド・ストラクチャー、ゼロベース思考を教えられ、
実際に演習問題を解いた。
マッキンゼーという聞いた事のない外国の会社出身だという
そのベンチャーの役員は、宗教よりも実質的な「考える技術」を教えてくれたのだ。

五反田のマンションの一室にその会社はあった。
セミナーに衝撃を受けた僕は何度か通い、仕事を手伝った。
会社は、インターネットで野菜を売るのだ。
千葉県の成田まで車で連れられ、農家の人と話しをして、野菜を受け取った。
今回こいつは出来が悪いから、こっちも付けるよなんて、
デジタルビジネスのはずなのに、やわらかい農家の対応が印象的だった。

このインターネットビジネスはとても面白いと思った。
しかしバイト代は払われず(いや、労働契約を結んだわけじゃないから
当たり前なんだけど)貧乏な僕は手伝うモチベーションを失っていった。
僕が行かなくなった後も、寮生の友人2人は通い続けた。
そのうち1人は、200時間働いて1万円もらったよー☆と言っていたが、
在学中に別の会社を興した。
もう1人はしばらく通ったあと辞め、六本木のホストになり、店のNo1になった。
僕はチャランゴを弾き、南米に行って、4キロやせた。

一瞬しか係わりがなかったけれど、そこで学んだ思考法は
その後の大学生活ばかりか、今に至るまで大変役に立っている。
僕はたいした頭の持ち主ではないけれど、考えるという時に
一定の枠組みを設定して順序だてて思考できることは楽しい。
MECEとピラミッドストラクチャーを使うのが楽しくて、
当時好きだった女の子を誘うのにも使ってみたりした。
失敗して手痛い打撃を食らったけれど。

あれから8年、あの社長が朝日新聞に出た。

Img_2959

あの時あのマンションの狭い部屋にいた社長が、大きなメディアで語られている。
こんなこともあるんだ。
殆どの会社は狭い部屋から始まっていく。
そしてその多くが消えるのだが、この社長は残ったのだ。

僕は田舎に暮らす、単なる社会人になった。
また何か怪しい人が声をかけてきてくれて、
それがきっかけで面白いことに巻き込まれる、
なんて事はまず、ないだろう。
それを望むなら自ら探し、飛び込むしかないのだ。

 

問題解決プロフェッショナル「思考と技術」

その会社で薦められた本はいまだに僕の本棚にある。

 

追記。その会社、オイシックス

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